ONLOOKER Ⅴ
階段の上からの足音に、顔を上げる。
さっきから下校する生徒たちが何度か通りすぎているのに、その時に限って気を引かれたのは、その話し声にだった。
高めの女性の声。
日本語ではない発音の混じった、独特のイントネーション。
真琴は、北校舎を歩いていた当初の目的を思い出した。
「あら、佐野くん」
英語教師のマリーは、真琴を見つけると、ぱたぱたと階段を降りてきた。
「コンクールの原稿ね?」と言う彼女に返事をしようとしたが、再び階段の上に視線が向く。
足音も話し声も、二人分だったのだ。
光村が真琴と同じようにして、「あ」と声を上げた。
「部長……」
「佐野さんじゃないですか! 今日は来てくれないって聞いてたのに、どうしたんですか?」
「……こんにちわ」
喜色を顔に浮かべる田畑から、真琴は目をそらしながら言った。
手に持っていたスピーチ原稿を、マリーに渡す。
「先生、添削お願いできますか?」
「まぁ、わざわざ? ワタシ、東校舎に寄ろうと思ってたのに」
「ちょっと時間なくて、探したほうが早いかと思って」
それを聞いたマリーは、言葉に迷うように、意味のない音だけ口から発した。
すぐに、ごめんなさいね、と続ける。