ONLOOKER Ⅴ

「すぐ行くつもりだったんだけど……」
「え? マリー先生の用って、佐野さんだったんですか?」
「まぁ……」
「なんだ、早く言ってくださればよかったのに。演劇部の顧問だって聞いたから、ちょっと話聞かせてもらってたんですよ」


田畑は笑いながら言った。
聖がひくりと眉をひそめるのが、視界の隅に入る。

その口振りからすると、マリーを引き留めた時点で、彼女に急ぎの用があることは知っていたのだろう。
真琴が彼女を探してうろついていた時間は二十分程度だが、田畑に捕まっていなければ、すぐに原稿を渡して、仕事に向かえていた。
用があるという人を自分の都合で引き留めて、急いでいる誰かの予定を狂わせておいて、悪びれもせずに「早く言ってくれればよかったのに」なんて。


「あんたさあ、それはないんじゃねーの」


低い声で言った聖に、田畑は半笑いで眉を跳ね上げた。

「はあ? なにがですか?」
「マリー先生が急いでんの知ってたんだろ。自分の長話で引き留めておいて、その言い方はねーだろって言ってんの」
「あなたに関係ないじゃないですか。佐野さんがなにも言ってないのに、どうして柏木さんが怒るんです?」

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