ONLOOKER Ⅴ
「そうですよ、聖先輩。先輩が怒ること、ないです」
自分で思っていたよりも、ずいぶん静かな声が出たことに、少し安心する。
視界の端で、田畑が鼻で笑うように息を吐いた。
諌めるような言葉遣いに、真琴が田畑の側についたとでも思ったのだろうか。
真琴は続けた。
「こんな低俗な人相手に」
振り返った聖が、驚いた顔で瞬きをする。
彼の肩越しに、ぽかんとした顔の田畑が、ようやくまともに視界に入る。
馬鹿にしたようにでもなく、高圧的にでもなく、ただ少し苛立ちを含ませて、真琴は言った。
「僕に演技指導してほしいんでしたっけ? 冗談じゃないですよ」
「は……は?」
「あなたみたいな失礼な人には、どれだけ頼まれたってなにもしてあげたくありません」
「さ、佐野さん? なにを」
「あなたなんかにあげる時間はないって言ってるんです。松矢監督にも紹介なんかしたくないです、僕が恥かくじゃないですか」
「はあ……?」
田畑が、口の端を歪めた。
目元もひくひくと引き攣っている。
彼の目的であった松矢監督の名前が出て、一瞬止まった思考がようやく働き出したのだろうか。
笑いが混じったような、醜い声の出し方で、言う。