ONLOOKER Ⅴ
「な……なんですかそれ? なに言ってるんですか」
「これ以上僕に関わる理由はないでしょうって言ってるんです」
「り、理由?」
「僕に取り入りたかったんでしょ? バレバレですよ。媚び方下手すぎ」
怒りに歪む田畑の顔を、真琴は思いの外冷静な気持ちで見ていた。
いつか自分が見ないふりをした、この男の汚い部分。
直姫は薄いガラス一枚隔てただけのそれを、なんでもないかのようにばりんと破って、冷めた目で眺めていた。
田畑に向かって、目を細める。
「い……いいと思ってるんですか? そんなこと言って」
「なにがですか」
「さ、佐野さんみたいな役者さんが……そんな、人を選ぶようなこと、言うとは。そんなこと言うとは思いませんでした」
真琴は、できるだけふてぶてしく眉を潜めた。
一度瞼を伏せて、溜め息を吐く。
田畑の、なぜか平静なふりをする変わった怒り方は、ひどく滑稽に見えた。
そんなことを言っていいのか、なんて。
だからなんだ、というのが、正直な返答だ。
「佐野真琴は本当は性格が悪い」と世間に訴えでもするつもりだろうか。
こんな学生一人に脅されたからってなんだというのだろう。
彼一人の告げ口で世論が動かせるとでも思っているのだろうか。
そんなふうにとどめでも刺そうか、と考えた。
今後の関わりを完全に断ちたいならそうすべきだ。
夏生や直姫なら、なんの躊躇いもなく、最も効果的な仕方でそうするだろう。
だが真琴は、冷え冷えとした視線を田畑に向けて、一言だけ言った。
「僕は役者じゃない。人間です」