ONLOOKER Ⅴ


木のもので統一された調度品、落ち着いた色合いの店内、長めに取ったカウンター。
照明は小さめのシャンデリア風で、奥の席にはシェードランプがテーブルに置かれている。

極めつけは、ゆったりと流れるBGMのジャズ。

一瞬、バーに入ってしまったかと考えた。

もしそうなら、万が一バレた時に大変なことになる。
白昼堂々バーに出入りする現役高校生のアイドルとシンガーソングライターなんて、週刊誌の格好のネタにもほどがある。

だがすぐに、自分の思い違いに気付いた。
鼻を擽るのが、心地よいコーヒーの香りであることに気付いたのだ。

そもそも昼間にこんな平凡な商店街で営業している飲食店が、高校生が入って問題のある店なんてことはまずないはずだ。
全力疾走したせいで、頭の働きが鈍っているのかもしれない。

実際、ここはカフェバーかなにからしい。
慌てて入って来て肩で息をする若い二人を訝しむでもなく、カウンターの中で調理台に向かっていた初老の男は、奥のテーブルに案内した。


「ご注文は」
「えーっと……アイスコーヒー」
「あたしも同じの、おねがいします」
「かしこまりました」


冷えた水のグラスをテーブルに置いて彼が立ち去ると、二人はそれを掴んで一気に飲み干した。
ぷはあ、と息を吐いてグラスを置いたタイミングが同時で、小さく苦笑いを交わす。


「あ、ひじぃ、ギターありがと」
「ああ、うん……ごめんね、なんか」
「にゃにが?」
「もっとちゃんと変装しとけばよかった」
「んにゃあ……お互いね……」


恋宵は言いながら受け取ったギターケースをテーブルに立て掛けて、店内をぐるりと見渡した。

初老の男は店主なのだろう、他に店員の姿は見当たらない。

てきぱきと動き回ると、すぐにグラスの二つ乗ったトレイを持って戻ってきた。
ことりと小さな音を立てて、丸いテーブルの上にグラスが増える。

そしてまたカウンターに戻った彼は、手に粉をはたいて再び作業を始めた。

レジの横にクッキーの袋の入ったカゴが置いてある。
今作っているのも、焼き菓子なのだろう。

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