ONLOOKER Ⅴ
あの頃、というのがいつのことで、なにがあって、どうなったのか、聖は知らない。
唯一心当たりがあるはずの光村は、黙ったままで、少し険しい顔をしていた。
血を流している他人の怪我を見た時のような表情だ。
真琴は目を伏せて、大人びた穏やかさで笑ってみせた。
「でもきっと、そうじゃなかったら、今の僕はいないから」
「……」
「仕事にのめり込むことも、悠綺高校に入学することもなかったんだよ」
状況がまったく飲み込めなくて、二人を交互に観察するしかない聖の目には、光村が目を見開いたように見えた。
実際、少し驚いたように、言う。
「あの……もしかして、俺に、気にするなって言ってんの」
「え? あ、えっと……まあ、うん、そうかな」
真琴は首を捻るようにして、疑問系みたいな発音で肯定した。
口元は少し恥ずかしそうに笑っている。
それを見た光村は、声を上げて吹き出した。
「お前さあ……全然変わってないじゃん、そーゆう遠回しなとこ」
「え、そうかな、そんなに?」
「ほんっと、」
「あ、あは……」
「ごめんな」
頬を掻く真琴に、光村は言った。
真琴はぱちりと瞬きをして、笑い顔のまま、彼を見ている。
「今までなんにも言えなかった」
そして、そう続けた光村に、頷いてから、首を横に振った。
なにかがあって、時間が経って、今、それがゆっくりと溶けたのだ。
そんなことくらいしかわからない聖とマリーは、首を傾げながら顔を見合わせる。
その横でかつての親友は、ぎこちなく微笑み合うのだった。
(つづく)