小さな恋のうた

「………紫苑、話があるんだ……」

琥珀が愛裕が見えなくなったのを見計らい紫苑に声をかける。

「なぁに?」

紫苑の声が震えているのは気のせいではないのだろう。

「前、お前が婚約者になるって決めた時の約束……覚えているか…?」

小さい頃、ふたりで決めたコト。
紫苑は絶対覚えていると琥珀は確信していた。

「おれに“本当好な人“が出来たら……やめるって…」

優しくて残酷な最初で最後の約束を。

「………」

しばらく沈黙した。琥珀も紫苑も一言も話さない。何を今、考えているのかも…
そして、最初に声を発したのは紫苑だった。

「それじゃあ…婚約破棄だねっ!!」

それはまるで分かっていたかのような口調だった。
いや、分かっていたのだろう。
琥珀が自分を好きにならないことを…
琥珀が“愛裕“を好きになったことを…
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