小さな恋のうた
琥珀は黙って受けとる。
いつもなら静かでも和やかで暖かいふいんきが漂っているが、今はその静かが辛い…

「あ、あのっ……」

「今日から出張で一週間帰ってこないから」

そう言った琥珀の表情は見えない。
ただ、声が何の感情もなかった。
辛いも悲しいも嬉しいも何ひとつとしてない声だった。
その声は不安定だった愛裕のこころを傷付けるには十分すぎた。

怒っていますか?
苛ついていますか?
昨日勝手に帰ったからですか?
なにか私しましたか?
どうして感情を見せてくれないんですか?
聞きたいことはたくさんあるのに何も聞けない雰囲気で、主とメイドという立場を改めて思い絞められた。

「仕事があるだろ。もう行ったらどうだ」

愛裕とは反対に顔を向けられたままの琥珀に言われる。
それははっきりとした拒絶だった。
琥珀からの初めての拒絶だった。

それからは何も覚えていない。
ただ何も考えられなくて…たくさんの人達に心配された。
それでも考えることは琥珀のことだった。



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