sound village
そしてーーーー
音村係長のこともーーー
発車の車内アナウンスが
流れる。
いつもは、係長がしている様に
扉近くの手すりにもたれ立てば
「…あれっ?おはよう。」
聞きなれた声がして
声の方に視線を送れば
走ったのか息を整える
係長がいて。
…なんで…
「…おはようございます。」
「いやぁ…乗り遅れるかと思った。」
あぶなかった…と、
一息ついている。
まずいな。この車両は
次の駅で乗車率が100%に
近くなる。
「係長…隣の車両に…」
“行きましょうーーーー”
言い切らないうちに
扉が開き、人がなだれ込んで来て
「「…うげっ…」」
とっさに、係長を腕に抱き取り
体を入れ替える。
「毎度…すまにゃい…」
胸元でモゾモゾ動く生き物が
何だか可愛くて…体が熱くなる。
「…いえ…俺の役得です。」
腕の力をこめて
しっかり抱き締める。
「斐川くん…ファンデーションが
ついちゃうから。」
俺の胸に手をあて
体を離そうと、もがくその人を
更に力をこめて抱く。
「毎度で…悪いと思うなら…」
“チャンスは自分で…”
啓太の言葉を思い出して
耳元になるだけ近づき
唇を開いた。