sound village




「柏木くん。お疲れ様。」


壁にもたれ立ち、
手元の白い紙から視線を
外せずにいる彼に声をかける。


ハッとした様に、顔をあげて
こちらに視線を寄越して
彼は、息をのむ。


「…レンちゃん。」


そう呟き、いつも通りの表情を
その顔に貼り付け、手にした
紙を、ポケットに収めた。


彼は…いつだって…
弱みを含めた素顔を見せない。

…私では…私やテルテルでは
頼りないのだろうか?

例え好意を示してくれても
信用には値しないのだろうか。

…まあ、オモチャにしているだけ
かもしれないけど。

知れずと、ため息をつく。

「…ねえ。その紙、見せて。

それ、多分、診断書だよねぇ?

…君自身のなら、見せて。」


そもそも…プライバシーの侵害等と
拒まれれば、どうしようもない。
拒否権も承知の上で、
掌を差し出した。


…でも…


もしかしたら、心の何処かに
彼なら…柏木くんなら…

見せてくれるんじゃないか

あんな表情をするくらい
抱え込んだ、辛い何かを。

心を開いてくれるんじゃ
ないか…


そんな、あまさが
自分の中に、あったのかも
しれない。


…だから…


「ちょっと、古傷が炎症しただけ。
レンちゃんには、…仕事には、
影響ないから、大丈夫。」


…そう、拒まれた事が



こんなに、ショックだったのかも
しれない。



「そう。それなら、無理強いは、
しないでおくよ。また、来週ね。」



何ともない様に
サラッと言ったけれども。










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