sound village
「どうぞ、お入り。」
「ああ…っと。
…お邪魔します。」
近所の目があるんだから
入るなら、サッサとしろと言われ
微妙な緊張感の中、
憧れのヒトの部屋に足を
踏み入れる。
「今週、まともに掃除できなくて
まあまあ片付いてないけど
大目にみてね。」
テヘヘと笑う、大好きな女の子
「コーヒー入れるから
適当に座ってなさい。」
動きは残念ながら
緩慢やけど(笑)
カノジョの家に来た様な
錯覚を起こす。
こんな絶好のチャンス
…普段の俺なら、多分
このまま寝室になだれ込む位の
策略を廻らせるのに。
今日は、全く余力がない。
診断書を折りたたんで
しまいこんだポケットを
無意識のうちに触る。
「…バスケ…できなくなった?」
コトッという音がして、
湯気の立つマグカップが
テーブルに置かれた。
「…ありがとうございます。」
膝は…振り出しに戻った。
まあ、あの当時ほど酷い訳では
ないから、リハビリ次第で
違和感なくストバスできる
程度には、戻せるやろう。
ただし、年々リカバリー力は
落ちてゆく。
今回が、バスケ…と、言わず
スポーツができる最後の
ボーダーラインやろう。
…歳とったら、
身体効かん様になる
可能性は、滅茶苦茶高い。
…しかし…折角、ムコウで
リベンジぶちかませる機会を
作ってもらっておきながら…
この不始末。
…いや、そもそも
斐川のタメやったか。
「ガンコ者。」
「…え?」
レンちゃんの、問いかけにも
答えずに、考え耽って
いたらしい。