sound village
スマートフォンでレンちゃんと
話していた彼女は、片手で器用に
画面を操作して、こちらへ笑みを
向けた。
「そこから中に入るな。
声も出すな。
素直に言うことを聞いた1号に
ひと目だけ、レンちゃんの姿を
見せてあげよう。
キミの心にしっかり留めて、
頑張っておいで。」
スマホを自身のジーンズの
尻のポケットへ仕舞いながら、
そういって、こちらに背を向け、
さっさと歩き出した。
途中、肩に担いだビール箱を
揺すり、ポジションを整えながら
歩く彼女も、とうとう、
駐車場の街灯の照度分布域から
外れ、ぼんやり輪郭しか
分からなくなった。
マンションの一室の扉が
ソロソロ開くのが見えた。
「くぅっ…真月さんっ。」
涙声でグチャグチャの
女性の声――――――
「真月!!遅いっ。
つうか、それ、持つよ。
うぎゃっ!!重たっ!!」
あの影はチビッ子やろうか?
オネイサンが担いでいた
ダンボール箱を、
ワタワタと受け取って、
レンちゃんの部屋へ入って
いった。
「真月さぁん…」
だいぶ…酔っ払っているであろう
その人は―――――――――
「とうとう、行っちゃう…」
グスグス鼻水をすすりながら
そんな言葉を漏らす。