sound village

間一髪**side柏木



「ヤバイな…」

腕時計の示す時刻を見て
思わず独り事をこぼす。

チビッコから聞かされた
偉いさんとの親睦会という名の
接待が、開始されてから
既に一時間が経過していた。

取引先との小さな意思疎通の
行き違いによるトラブル対処に
緊急訪問していた俺は
通訳もしなければいけないと
いうのに、漸く、事務所を
出たところだった。

啓太に状況確認のため電話する。
数回のコールの後、啓太が
若干おかしなテンションで電話に
応じた。

『あ!柏木くん。』

「すまんな、クレーム処理で
遅くなった。そっち、問題ないか?」

日本語なんぞ喋るつもりもないで
あろう、うちの人間と…
英語なんぞ今更覚えるつもりもない
前の会社の…エライさん達…

接待なんぞ場を設けたところで
どこで打ち溶け合って
折り合いつけるつもりやねん!?

…と、思いながらも
その想いを飲み込み、穏便に
済ませている。

…俺もオトナになったな…

いや…成ってないか…

真昼間にやらかして
チビッコに怒られたところやしな。

 

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