sound village
ゲームを終え、
人がはけるコートを
まっすぐ縦断し、
レンちゃんが居る観客席が、
視界に入る限界まで
歩みを進める。
「柏木?」
次の試合相手の神島が、
不思議そうに、俺を
呼び止めかけたけど。
俺の視線の先を見遣り、
苦笑を浮かべて踵を返した。
階上席には、
俺を視界にとらえ二ヤリと笑み、
レンちゃんの背中を押す女帝。
…相変わらず、鋭いヒトやな。
反して、ちょっと照れながら
柵格子際迄、階段を下り
近づいてくる俺のカノジョ。
油断しているであろう
素直でカワイイ女の子。
「レンちゃん。」
俺を見つめるその眼差しは
優しい。カノジョは、
些細な音も口唇も
読み取れるヒト。そんなに
大きな声を出す必要はない。
案の定、彼女は、
小首を傾げ、俺の声を
拾おうとしてくれている。
全力大声もいいかも…でも
シャイなレンちゃんには、
…秘め事要素が多いほど
効果的や。
この機会を無駄にせず、
計算ずくで、この手に落とす。
絶対に幸せにするから。
何も心配しなくていいから。
レンちゃんの不安は
全部、俺は取り除くよ。
だから、“イエス”ってゆってよ。
「観に来てくれたんや。」
敢えて、世間話をするときと
同じテンションで呼びかける。
「うん、チョットだけ見に来た。」
照れくさそうに笑うカノジョに
俺は、爆弾を落とす。
最悪、俺は
大恥をかくかもしれん。
そのリスクは重々承知してる。
…それでも
「なぁ、レンちゃん。
俺と、結婚してよ。」
そう、言葉を紡いだ瞬間
体育館が静まり返った。
間が悪かったな。(笑)
こんだけ人数がいる体育館で
無音の瞬間ができるなんて。
まさか、その瞬間に
勝負をかけたやなんて。