sound village
…でも、まぁ…
コイツは、あの会社の中でも
ずば抜けて優しくていいヤツだから
特別に教えてやろう。
『…プロポーズだよ。』
Tシャツをひっぱり
耳元で小声で告げれば。
アントニオは、ハッとした
表情をして口元を両手で覆う。
『シュン、彼女が君達の上司か。
リヒトがメールで送ってきた
写真のヒトじゃないか。
…そうか、恋人になれたんだな。』
そう、感慨深げに言うけれど。
…それ、先週の事ですから。
それより、そろそろ次の試合が
始まりそうな空気感で、
結論の出ない二人に、ちょっと
気をもんでしまう。
いや、俺達が結論を待つ必要も
ないんだけど。
音村係長も、コートの雰囲気を
悟ったのだろう。
徐に、羽織っていたパーカーの
ポケットから、掌サイズの小箱を
取り出し、柏木に向け、
そっと投げ落とした。
意外とナイスコントロール。
濃紺色の小箱は、柏木の両手に
吸い込まれるように着地した。
「…なにこれ?」
キョトンとする柏木に
「あげる。」
そう言って
ちょっと照れた音村係長。
「開けていい?」
包装紙も無い簡素な紺色の
ケースを覆う紙製の帯を
柏木は開ける。
俺たちは、思わず
どこぞの家政婦ヨロシク
数歩近づいて様子を伺う。