妖花
「……人を助けたがるのは、大天使ルシファーだった頃の名残りかい?」
単刀直入に訊かれ、春芝は舌を打った。
「まさか。
俺あ、人の苦悩を喰うために、人どもを生かしてやってるんでい」
春芝の言葉は恩着せがましかった。
段田はだるそうに大欠伸をかく。
「まあ、悪魔は自由な生き物。
どの方向に走ったって、だれにも咎められやしないさ。
あんたの好きにするといい」
「おめえは、どうするんでい」
「そうさな。
面白そうだから、あんたに与するとしようか。
私が実体を手に入れたら、の話だが」
春芝が段田をやぶにらみする。
「おめえが実体を得るにゃ、契約者を決めなきゃならねえ」
「一応、候補なら上がっている」
「あの餓鬼か?」
「うむ。今のところはね」
段田は躊躇なく肯定した。
春芝は下唇をひん剥いて不満をあらわにする。
「せめてな、もうちっと大人になった人間と契約しろよ。
あいつあ、体は立派だが精神的に餓鬼だ」
「そう、そこが問題なんだ。
もうちょっと、成長してくれればいいんだけれどねえ」
菊之助の気性は、悪魔からは酷評であった。
自分たちの声が賑やかな人々の声に脆く消し去られるのを、悪魔どもはじっと黙殺していた。