妖花
ああ……。
菊はさらに強く、刀を抱き締める。
いま、守ってくれる大人がいなくなってしまった。
子供はか弱いものだから、大人なしでは生き抜けぬ。
百合はもう大人と子供の境界線に居る。
しかし、いくら気丈であっても、女であるから体はそれほど逞しくはない。
だから、強い大人が必要なのだ。
早く、大人になんねえと……。
菊は姉と違って、女にしては随分と男勝りでかつ丈夫だ。
そして剣を扱う才能もあった。
もう姉を守れるのは自分しかいない、と菊は腹を決め、なにか百合を励ましてやれる言葉を口にしようとした。
した、が、
「う」
いざ、父の死を実感すると、喉から内情が声となって発された。
やはり、菊之助はまだ幼い子供だった。
そんな子供に、腹当てを着た金太郎のような恰好の蓮兵衛が、とことこと歩み寄り、
「泣いてるの?これあげるから、元気だしなよ」
と。
まだひと舐めもしていない飴を、菊に差し出してやったのだった。