妖花
段田李音と美妖女
*
ふわりと咲く花が描かれた掛け軸が、部屋を彩っている。
描かれているのは、眼球が雄蕊にある赤い花だった。
「あら、奇麗な花ねえ」
白い振袖を着た女の独り言に、段田は誇らしげにほくそほほ笑んだ。
「お褒めの言葉、どうもありがとう」
妖花屋の壁には、奇妙な装飾が多く施されている。
これは段田の嗜好ゆえのものであるらしい。
その微笑みは心底からの悦びの表れなのか、いつになく輝かしい。
段田に差し向った女は、どうやらこの男が視えるようだ。
振袖の袂で口元の妖しい笑みを隠し、女は艶めく長蛇なような髪を耳にかける。
いかなる男も捕らえて放さぬ、夜風の潤んだ眼が露わになる。
しかし段田はそれに動揺するでもなく、南蛮の貴公子のような微笑を保っている。
「……さっきからずっと笑顔だけど、あんた、わっちを怖がらないのかえ?」
女が問うた。
「斯様な美しい女人を恐れる必要がどこにある?
それにこの笑顔は、妖である貴女への敬意さ」
気障な返答だ。
菊之助なら直ちに唾を吐いているところだろう。
だが、最初の一言を言われて不快になる女はきっと少ないはずだ。
言ったのが段田ならなおさらである。
「敬意ねえ。
一時、わっちを妙な入れ物に閉じ込めておいてよく言うよ」
「それはすまなかった」
段田は軽い頭を下げたが、謝罪の言葉など口ばかり。
塵ほども悪いと思っていないのは、その明るい声音と崩れぬ笑顔からして瞭然だった。