妖花
「そうやって大人の目線で物申すような言い方が気に食わねえ。
人を馬鹿にしてるみたいだ」
「そうとも、私は君を馬鹿だと思ってる。
なぜなら、君はすぐに感情のまま動く。
口を開けば文句ばかり。
知性がまるで無い、幼稚で粗暴な発言。
君は剣術の才はあっても脳味噌のない子供だ」
「なんだとう!この」
菊之助は段田の黒髪を指差したまま、言葉を途切れさせた。
あの変な髪型をどう罵ろう。
その隙を段田が利用せぬはずがない。
「ふふん、君は口喧嘩も苦手なわけか」
菊之助の頭に例の書物を乗せ、段田がここぞとばかりに揶揄してくる。
そんな大人と子供の間に、
「良い男が喧嘩するもんじゃないよ。
鎮まりなんし」
と、毛女郎が仲裁に入る。
「わっちを奪い合って争うならいいけど、坊やと兄さんの無意味な口論は、うるさいからやめとくれ」
「俺は子供じゃないよ」
菊之助は怒号を最小限に抑制する。
「あの野郎が、勝手に俺を子供呼ばわりしてるだけだ」
「あら、そうなのかい。
大人にしては、ずいぶんと可愛らしい声だねえ。
男なのに」
喉元を過ぎれば熱さを忘れるのか、情けをかけてくれたことに好感を持っているのか、それとも普段からなのか。
毛女郎は親しい接し方である。
「うっ、生まれつきだ」
茶を濁し、菊之助はそっぽをむく。
男のような顔と言えど女なのだから、男の低く太い声など出せるわけがなかった。
(おっといけねえ。
怒るよりも先にやることがあった)
菊之助はようやく、いきり立る感情の炎と鎮火させ、段田に差し向う。
中性的な美貌は、もう嘲笑を浮かべていない。
菊之助の出方を窺うような、それでもっていつでも俊敏に動ける準備をしているような、少々きつい無表情である。