封印戦慄映像
 床にボールが跳ね、転がる音。血生臭い匂い……その後は静けさが広がった。


――久実! 久実! 


遠くで名前を呼ぶ声がする。私の名前を呼ぶのは誰……?


――久実。悪いわね。冬馬とあっちの世界で仲良く添い遂げるわ? 結局貴方は、私から彼を奪えなかった。残念ね……心配しないで? 私は今幸せよ。


冬馬の背後から、抱きしめているのは直子?


――久実! 助けてくれ! 俺はまだ逝きたくない! こいつとなんて嫌だ!


こちらに腕を伸ばす冬馬。


ああ、私はあの腕を早く掴み返さなくっちゃ……。


だがいくら腕を伸ばし、指を目一杯に開き、そちらへ走ろうとしても追いつくことは出来なかった。
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