亡くなった彼女の蹴り
彼女
僕は、軍用コートのポケットからあのハンカチを偶然見つけた。
あれから一年以上が経っている。
軍用コートをあまり着なかったせいか彼女のハンカチが、まさか今頃出てくるとは思ってなかった。
白を基調に周りに刺繍の入ったシンプルなハンカチには、染みになって点々と血の跡がついている。
染みは、薄茶色に変色して時の経過を感じさせる。
彼女は、あの後急病にかかり闘病して亡くなった。
僕は、ハンカチを見ながら泣いた。
こめかみにあの時の蹴りが甦って来るような錯覚を覚える。
彼女は、何らかの心の闇を抱えならがら生きていた。
そこは、真っ暗で深海のようでもあり井戸の底のようでもあったのではないかと想像する。
しかし、彼女は最後まで必死に闘って死んだ。
最後は本当の暗闇に落ちたのだろうか?
僕は、そうは思わない。
最後まで闘った者にしか見れない世界を見れたはずだと思う。