月と太陽
そうしている内にバスが来た。

乗車すると、わたしたちは2人用の椅子に座った。

男子と2人きりでこんな風にバスに乗るのも、この距離感で座るのも初めてで、心臓の鼓動が全身に伝わるほど大きくなるのが感じられた。

これが彼に伝わってしまうのではないかと、必死で平気なフリをした。

「なぁ、しずく」

名前を呼ばれてドキッとする。

正直、今まで男子から下の名前を呼び捨てにされたことはなく、呼ばれ慣れてないため異常に反応してしまうのだ。

「今日だけじゃなくて、これからもたまにこうして一緒に帰ってくれないか?しずくが嫌じゃなければだけど」

わたしはこの距離で彼を見上げることが出来ず、自分のモジモジした手を見つめながら彼の声に耳を傾けていた。

「べ、別に嫌じゃ、ないけど」

「けど?」

「い、嫌じゃないから、別にいいわよ。一緒に帰ってあげても」

タケルのククッと笑う声が聞こえる。

また馬鹿にされてる。

でも、嫌な気分にはならなかった。

「ありがとう」

タケルは優しく囁いた。
< 24 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop