月と太陽
亜利沙に連れられ、日下家へ2度目の訪問となる。

玄関のドアを開け、家に入るなり亜利沙は「母さん!ちょっと来て!」と大きな声を出した。

奥からパタパタとスリッパの音が聞こえてきた。

「亜利沙?コンビニに行ったんじゃ…」

そう言いながら、亜利沙の声に驚き歩いて来たタケルのお母さんは、わたしがいることに気付くと、ハッと一瞬息を止めたように見えた。

「しずくちゃん…」

タケルのお母さんは、そっとわたしに歩み寄って来た。

そして、何も言わずに優しく抱きしめた。

胸が熱くなって、何かがこみ上げてくる。

それは涙として、信じられないほど沢山溢れ出してきた。

涙のわけなど、自分でもわからない。

ただ、わたしには温か過ぎた。

人の温もりをこんなにも感じる。

わたしはタケルのお母さんの背中に腕を回し、服をギュッと掴んだ。

思わず抱きしめてしまうほど、わたしはか弱く小さく見えたのだろう。

まるで段ボール箱に捨てられた子犬のように。
< 55 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop