月と太陽
「あ、そうそう、亜利沙。優(すぐる)さんに電話しておいてちょうだい」

キッチンで鍋の蓋を持ちながら、タケルのお母さんが言う。

亜利沙は「わかった」と返事をすると、テレビ台の横にあるチェスト上の電話を手に取った。

そして、「優さん」に電話をかけているようだ。

「…あ、父さん?亜利沙よ」

どうやら電話の相手の「優さん」とは、お父さんらしい。

「今日、何時に仕事終わる?すぐに帰って来て欲しいの」

亜利沙はその後、リビングから出て電話を続けているようだった。

お父さんにすぐ帰って来て欲しいだなんて頼むのは、わたしが来たことが関係しているのだろうか。

そう考えていると、キッチンの方から優しい香りが漂ってきて、わたしのお腹を鳴らせた。

お腹が空いてないと口にした自分が恥ずかしくなった。
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