月と太陽
どっこいしょ、とばかりに重たい荷物を下ろす。

やっと日下家に辿り着いた。

それほど長い距離を歩いたわけでもないのに、とてつもなく長時間歩いて来たように感じる。

荷物を握っていた手のひらが真っ赤になりながらシワくちゃになって、上手く手のひらを広げることが出来ない。

額に汗が滲んでいるのがわかった。

「おかえりなさい」

笑顔のお母さんが迎えてくれた。

出迎えてくれる人がいるっていうのは、幸せなことだ。

「ちょっと、匡人〜。荷物持つの手伝って〜!」

ローファーを脱ぎながら梨子が叫ぶ。

「荷物ってのはどこだ〜?」と言いながら、匡人がやって来た。

匡人は手の指の関節を鳴らせた。

「これ、お願いしてもいい?」

足元に置いた荷物を指差し、わたしは言った。

「なーんだ、これだけかよ。もっと持って来ても良かったんだぜ〜」

匡人はそう言いながら、軽々と荷物を持ち上げた。

わたしが感じていたあの重さが嘘のように。
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