月と太陽
先に部屋に入っていた匡人は、担いでいたわたしの荷物をドスンとベッドのすぐそばに下ろした。

そして部屋を見渡して「懐かしいなぁ」と呟いた。

わたしは一瞬「懐かしい」の意味がわからなかったが、以前に梨子も使っていた部屋だからだと理解できた。

「素敵な部屋ね」

タケルの方を振り返って、わたしは言った。

タケルは「気に入ってくれたかい?」と落ち着いた声で言うと、部屋へと入って来た。

いつも思うが、タケルの口調は年齢の割りに大人びている。

「本当懐かしいわね…」

梨子が部屋のドア付近に寄りかかり、腕を組む。

すると、匡人が勢いよくベッドに横になった。

「よくこのベッドで梨子と、」

と何かを言い掛けたところで、匡人に歩み寄った梨子が思い切り匡人の肩を叩いた。

「何馬鹿なこと言ってるの!今日からしずくのベッドよ。起きなさい!」

そう言って、梨子は匡人の腕を掴み、起き上がらせた。
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