月と太陽
わたしは笑った。

タケルと顔を見合わせて笑った。

笑うという行為は、一瞬でも嫌なこと全てを忘れさせてくれる。

わたしの生きてきた、この16年間の中で「笑うこと」があまりにも少なかったように感じた。

彼らに出逢い、やっと生きる希望が見つけられそうな気がした。


この日から、わたしの生活は地球がひっくり返ったかのように変わった。

朝起きれば「おはよう」と挨拶できる人がいる。

朝食が出て来て、お昼のための手作り弁当をお母さんが持たせてくれる。

「いってきます」と言える人がいて、「いってらっしゃい」と見送ってくれる人がいる。

帰宅すれば「ただいま」と言えて、「おかえり」と返ってくる。

夕食だって、1人じゃない。

家の中に、自分以外の人の気配を感じることが出来る。

突然、自分の生活環境が変わり、正直戸惑うこともあるけれど、慣れることを急かされるわけでもなく、フォローしてくれる人がいる。

穴だらけのわたしの心が何かに覆われて、守られている感じがした。

もうこれ以上、崩れ落ちてしまわないように。
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