月と太陽
「ただいま〜」

一番先に玄関に入った亜利沙が言う。

わたしもまだ言い慣れない言葉を口にしてみる。

「…ただいま」

あまりにもぎこちなさ過ぎて、自分で笑ってしまいそうになった。

「おかえりなさい」

お母さんがエプロン姿で迎えてくれる。

お母さんの姿を見ると、心が落ち着く気がした。

「お腹空いたでしょ?ご飯出来てるわよ。涼くんも一緒に食べましょ」

「はい、遠慮なくいただきます」

この家で生活するようになって、気付いたことがある。

それは、涼のことだ。

彼は、この家で一緒に暮らしているわけではないが、週のほとんどをこの家で過ごしている。

亜利沙の部屋に着替えも置いてあるようだ。

詳しいことは聞いてないが、涼もわたしと同じように、心に傷を負っているように感じた。
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