きみだけが好き。



 10分休憩からギリギリで音楽室に着いた私たち。


 まだ先生は来てなくて、助かった。


 音楽の授業は机が無くて、イスだけが並んである。 


「空いてるとこ、一番前だね……」


 未琴ちゃんが、がっかりした声で言う。


 音楽の席は、自由だから、みんなあまり前には座らない。


「仕方ないね、座ろっか」


 私の右隣に未琴ちゃんが腰を下ろした。


 周りのみんなは、先生が来てないからかガヤガヤしてる。


 あっ…すっかり忘れてたけど、私、山岡さんと恋のライバルなんだっけ…。


 正直、勝てる気はしない…というか勝てないかも…。


 山岡さんって、背は高いしスタイルいいし……ノリがいいからなぁ。


 私なんて、背は低いし童顔で、子どもっぽく見られちゃうし……すぐボーっとするし。


 ハァ……。


「なにため息ついてんの?」


 左側から声がする。


「や、ちょっといろいろあって……」


「森田にもいろいろあんだ? へぇ…」


 ……ん?


 私、てっきり未琴ちゃんかと思ってたけど……未琴ちゃんは『森田』なんて呼ばない…よね?


 右側を見ると、未琴ちゃんは眠いのかウトウト…。 どう見ても、私に話しかけてきた感じはない。


 …とすると。


 私はゆっくり左側を見た。
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