private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 「違うよっ!」


 慌てて笑顔をつくると、目尻から、暖かい雫が流れ伝った。

 星哉の心配そうな表情が、驚きに変わる。


 「何でもないよ……早く見に行こう」


 ギクシャクした空気が二人の間に流れてる。

 歩き方もスピードも変わらないのに、すごく、歩きにくかった。

 二年四組の教室のプレートが、グサッと胸に突き刺さる。

 星哉はプレートの下のドアを静かに開けた。

 不気味な音。

 それは、私の記憶の扉を押し開ける、残酷な音―――

 教室の床には青い光で形づくられた四角い窓が映写されていた。

 本物の窓からは、家々の明かりや繁華街の煌びやかなネオンが見える。

 昼の活気が消えた夜の静けさがしっとりと私を包み込み、

 かたく抱きこんだ膝に両目を押し当てていた日々を連れ戻す。


 「今日はもう寝る」


 と言って二階に上り、真っ暗にした部屋でしか、当時の私は泣くことができなかった。

 ここ、部屋じゃないよ。

 同じくらい暗いから、身体が勘違いしてるのかな。

 息を止めて、加速しようとする鼓動の勢いを抑える。

 噴出そうとするすべてを身体の中に押し戻して、思考を今瞳に映ることにだけ、集中させようとした。


 「岡崎」


 不意に穏やかな声が私の耳に届く。


 「……同じ顔するなよ」


 何言ってるの?

 そう問おうとしたけど、声を出したら、ヤバかった。

 唐突に星哉は歩き出す。

 繋がった手が私を引っ張った。

 何? 星哉、怒ってる?

 何で? 私何もしてない……

 窓を前する星哉の身体のラインが、青白く浮き上がる。

 見慣れた髪の形、ガッチリした肩、広い背中。

 だけど、まとう雰囲気がいつもと違う。


 「岡崎は俺の彼女だよな?」


 ど、え?

 せっ星……哉!?


 「どうなんだよ!」


 すごい力で私の手が握りつぶされる。
< 120 / 269 >

この作品をシェア

pagetop