private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 リノリウムをパキパキ言わせて歩いて行く音が遠ざかる。

 やがて廊下の電気が消えた。


 「は~ぁ……」


 ため息を吐いて、星哉は足を投げ出し、壁に寄りかかって立て膝をした。


 「ねっねぇ、カギかけられちゃったよ」

 「大丈夫」

 「何が? 出られないじゃん」

 「平気」

 「このまんまここにいるつもり?」

 「それもいいな」


 星哉は真剣にならず、子どもっぽく笑う。


 「よくないよ!! セコム鳴っちゃうよ?」

 「そうか」


 だけど星哉は焦らない。


 「どうするの!? 大騒ぎになっちゃうよ」

 「大丈夫だって」


 微苦笑しながら立ち上がると、ドアのところまで行って、しゃがんだ。

 廊下と教室を隔てる壁の下。

 長方形のサッシ。

 サッシって言っていいのかなぁ、窓みたいにガラスがついてない。

 星哉はそれについたカギを下げて横にスライドさせた。

 そうか、あそこならカギが開いてても見回りをした先生に迷惑がかからないね。

 廊下に出ると、星明かりがさっきよりも優しかった。

 先生が下のフロアを見回っているようで、階段は明るい。

 だけど、物音を立てないように、でも急いで、とさっきより慎重だった。

 よかった、何事もなくて。

 ホッとしながら玄関で靴を履く。

 見えなかった。

 玄関についた蛍光灯のせいで、目は外を黒く映し、もう大丈夫だと、気は緩んでいたから。


 「お前らっ!!」


 ギョッとなって顔を上げたら、さっき外に出て行った先生が立っていた。


 「せっ先生……」

 「ん?」


 先生は声を上げた星哉の方を見る。


 「お、なんだ五十嵐か」

 「お元気そうですねっ」
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