private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 「そろそろお出掛けにならないと、遅刻してしまいますよ?」


 独特の響きを持った鷹槻の低音が部屋のドアの向こうから聞こえる。

 日本では一人暮らしがしてぇって、俺言ったよな?

 何でペントハウスん中に、あいつがいるんだよ!!


 「日本来たらジジイんトコで働くって、言ってなかったか?」


 俺はハッキリと聞いたぞ、日本に来る飛行機の中で。

 
 「えぇ、行って参りましたところ、日本でも引き続き
 寿様にお仕えするようにとのことでしたので」

 「あんのクソジジイ」

 「寿楽様!!」


 瞬間、カッチーンときた。

 部屋のドアを思い切り押しのけて、


 「テメェ、その名前で呼ぶなっつったよな?」


 と怒鳴る。

 左右対称の柔和な微笑みの中に、嫌味を隠してること俺は知ってる。

 嫌味っつや、この顔。

 俺には冷血なこの性格と鋭い目のせいで

 吸血鬼にしか見えないが、女ウケが相当いい。

 細い黒縁の幅の狭いスクエアメガネが拍車をかけていい!
 
 っていうのが、にわかには信じがたい。

 ただのインテリじゃねぇかよ。


 「己の欲せざる所、人に施すこと勿れ、です。寿様」


 俺がドアを閉められないように鷹槻はしっかり掴んで離さない。

 嫌味だろ、まったく。

 これで家事はバッチリ、気が利くし、忠実なせいで

 ジジイの覚えもめでたくて、若干二十四で俺の執事だぞ。

 ダンスはうまい、口はうまい、時間の遣い方なんか誰よりもうまい。

 たった二十四年の人生を、お前どんだけ有意義に遣ったんだ?


 「ウゼェよ」


 この言葉が口癖になったのは、鷹槻のせいだと信じて疑ったことはない。
< 15 / 269 >

この作品をシェア

pagetop