private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 チョコに絡もうとするアプリコットの風味が、

 ふんわり甘ずっぱいせいかもしれない。

 最後は周りをコーティングしたビターなカカオの大人っぽい味。


 「すごく美味しいです」


 そう言うと、鷹槻さんは嬉しそうに笑う。


 「横に添えた生クリームを乗せて食べるのがウィーン風ですよ」


 言われたように食べてみたら、甘くない生クリームが

 個性の強いチョコの味を優しく包むんだ。

 まったりとした、柔らかくて優しい余韻が口の中に残る。


 う~ん、このケーキ、鷹槻さんのイメージピッタリ。


 ケーキが美味しくて、鷹槻さんが優しくて、私はヘーゼルナッツのケーキも食べさせて貰った。



 ケーキ屋さんを出る前に、鷹槻さんに、まだ時間はあるかと訊かれた。


 「大丈夫です」


 そう答えた私だったけど、お店の外で藍色がしみてきた

 空を見上げて、すぐに帰りたくなった。



 一番星が輝いていたから。

 星―――星哉。



 「岡崎様? どうされました?」


 タクシーのドアのところで、鷹槻さんが柔和な

 微笑みの中に心配を隠して私を見てる。


 「なっ何でもないです」


 にこっと笑って、タクシーに乗り込んだ。



 鷹槻さんが運転手に告げたのは“城跡公園”。



 タクシーは山の中の道をどんどん上って、

 唐突に姿を見せた駐車場で私たちを降ろした。

 街灯がポツポツついてるだけで、結構陰気な感じ。



 城跡ってことは、お城があった場所なんだよね……

 敗軍の城、だったりするのかなぁ………


 ちょっと怖いなって思いながらアスファルトの道を

 ちょっと歩いたら、すぐに開けた野原に出た。


 「あ……」


 原っぱのずっと向こうで、キラキラと地上が光っていた。
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