private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 「近くまで行きましょう」


 二人でもさもさと丈の短い芝生の上を歩いて、

 原っぱの先端まで行った。

 遥か彼方にある海が真っ暗で、陸との境があやふや。

 見えるのは光るものばかりだから、まるで街一つが

 大洋に浮かぶ光の島みたいだった。


 「我が主絶えるとき、己の命あるを羞じよ」

 「なっ何ですか……それ」

 「家訓ですよ。幼い頃、祖父からよく言われていました。
 現代の日本で遣うには、少し違和感がありますね」


 私の想像を絶するもの凄い空間が寿と鷹槻さんのいる世界なんだ。


 「もしここが戦国時代か何かで、寿がヤバイ状態だったら、
 鷹槻さんどうするんですか?」


 城の跡地で、私は危ういことを訊いた。


 「その状況になってみなければ、何とも申し上げられません」


 穏やかな笑みを浮かべる鷹槻さん。

 言葉の真意がよく、分からなかった。


 「私……今日ふられちゃったんですよ……」


 満天の星が浮かぶ空の下、忠誠心を問うたのと同じ私の口が、ぽろっと漏らした。


 「十年近くずっと好きだった人と、やっと最近つき合い始めたのに…………」


 寿のせいで、とは言わなかったけど、鷹槻さんならきっと、悟ると思う。



 「原因は、寿ですか?」



 ほら、ね?

 もしかしたら、分かってたんじゃないのかな、最初から。

 だから、私を誘い出してくれたんじゃないのかな。


 “我が主絶えるとき、己の命あるを羞じよ”

 だもん。


 「好きなんです。私はずっと………諦められない」


 今までそうだったように。

 星哉のこと考えると、キューって胸が苦しくなる。

 辛いときは、いつも助けてくれた。

 硬派で、

 優しくて強くて、

 口数少なくて………


 「でも……もう、ダメだと思うんです」
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