private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 「ボンジュ~ルッ! こ~とぶき~ぃっ」


 カシマシ女が参上した。

 スッコーンと突き抜けるソプラノは普通に喋ってるときはいいのに、大声でこられるとたまらない。


 「あら……寝てるの? ご挨拶ねぇ。せっかくお姉様が可愛い弟の顔を見に足を伸ばしたって言うのに」


 そんな気遣い結構だ。

 俺は寝たふりを慣行。


 「なら、ご一緒させていただくわ」


 挑発には乗んねぇよ……っておい!!

 琴音は掛け布団の裾を持ち上げて、スルスル中に入ってくる。

 ドコまでやる気だ、こいつは。


 「ウッ」


 耳に風が入った。


 「寿、寂しかったよ~」


 吐息の多い囁きが耳元でする。



 どっどこまで……


 温かい気配が、ゆっくりとみぞおちから上に流れてきた。



 ヤバ……くねぇか?

 今、どうなってんだよ?

 けばけばした淡い感覚が頬を撫でる。

 多分それは髪の毛で、髪がそんなところに触れるということは真上に奴の顔が………

 こっこのままいったら近親相姦?

 いや、そんなことにはならない。

 絶対にならない。

 琴音は婚約中の身だ。

 結婚式も今年中にやるらしいし、変な噂でも立とうものならエライことになる。

 たちまち婚約解消、彩並家失脚。

 俺たちは路頭に迷い、物乞いでもして生きながら、

 倒産企業の悪例として語り継がれることになる。

 だから大丈夫だ、俺と同じく会社第一の教育を

 受けてきたんだから、琴音はそんなにバカじゃねぇ!!


 「可愛い顔してるねぇ。弟にしとくのは勿体ないよぉ」


 髪の生え際に、わずかに濡れた指先が触れる。


 「心貢と私が逆だったら良かったのに……」


 おっおいっ! それはどういう了見だ!!
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