private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 「寿様に召し上がっていただきたいと、おっしゃって」


 舌の上にこぼれ落ちる液体。


 あちぃっ!!


 サッと消える銀のスプーン。


 「イタリアの農園で加工したサンマルツァーノとポモドーロベルデを空輸させ」


 熱い液体をゴクッと嚥下してテーブルの上のタンブラーグラスに手を伸ばそう、

 としたところ、タイミング良く鷹槻がそれを取ってよこした。


 「シェフをお屋敷に招待され」


 ベラベラ御託を並べ続ける鷹槻の顔。

 お前こんなことしていいと思ってんの?

 ソッコークビにされても文句言えねぇよ?

 とは思いながら口じゃ100パー勝てねぇから

 一瞥するだけにしてグラスを受け取ると、そのまんま口ん中へ。


 ゲッ……


 麦茶じゃねぇ!!


 「何だこれ」

 「チェンシェフの自信作、冷製コンソメスープでございます」

 「馬鹿やろうっ!!」


 タンブラーグラスに冷えたコンソメ?


 ありえねぇだろ!!


 『もう少し大人にならなければ、わたくしには勝てませんよ?』


 って顔に書いてある。

 あえて口に出さねぇのが、更にウゼェ。


 「テメェクビにされてぇ?」


 燕尾服の胸ポケットから白い布を取り出して広げ、

 鷹槻はゆっくり手を伸ばしながら微笑んだ。


 「いいえ」


 奴の手が俺の口に届く前にポケットからハンカチを出すと自分の口を拭く。

 させるかタコ!!

 ガキじゃねぇし。

 鷹槻はそのままの笑みを崩さず、ホワイトチーフをたたみ、テーブルに置いた。


 「そろそろ学校に着きますよ。ご準備なさってください。はいお弁当」

 「いらねぇし」

 「一流の栄養士とシェフが寿様の栄養バランスを考え」

 「腕によりをかけてつくったんだろ? ウゼェからそういうの。
 冷えたコンビニ弁当のが今の俺には合ってんの!!」

 「そうおっしゃると思いまして、本日はこの中、空でございます」

 「テメェ、主人をからかうとはイー度胸じゃね?」
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