private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 鷹槻さんと電話を終えて、私はどうやって寿と連絡を取ろうかと考えた。

 メールだと文章だから、かしこまっちゃうし、電話がいいかなぁ……

 しばらく悩んでたけど、悩んでたって仕方ない!

 どうせ連絡しなきゃなんないんだから!!

 と開き直って私は寿のケータイに電話をかけた。


 「どうした?」


 電話に出た途端、心底不思議そうに問う寿。 


 「今日……ちょっと……何て言うか……悪かったなって、思って」

 「あぁ……別にいいけど」


 何だか会話がぎこちない。


 「その………私のこと、心配してくれて? ありがとう」


 ケータイの向こうからは、何も聞こえてこない。

 私の緊張が無音に溶けて心臓の音が響いてくる。

 何か喋ってよ!

 鼓動が聞こえちゃう……


 「………気持ちワリィんだけど」


 瞬間、ぷっつん。


 「最低! 人がお礼言ってるのに何それっ!」


 緊張してた私ってバカみたいじゃんっ!!


 「美希はそういう奴だろ? 礼なんかいらねぇよ」


 受話口にかかる吐息から、寿が軽く笑ってることが分かった。

 もしかして…………私がどんな状態でいたのか、

 分かってたとかいうこと……ないよね?

 ないよないよ、あの寿だもん。

 そうは思いながら、もしかしてっていう予想は拭いきれなくて、だから怒りが引いていく。



 残ったのは、やっぱり―――


 「寿さぁ……今日テストサボって何してたの?」

 「何? 俺に興味持っちゃった?」


 真剣に訊いてるのに寿がおどけて冗談挟むから、

 私はそれにノってやろうとなんか思えない。


 「全然。義理に決まってるじゃん」


 パシッと取りつく島もないくらいに言ってやった。


 「あったよ……」


 急に寿の声のトーンが落ち、抑揚が消える。

 あったことって、何かもの凄くマズイことなのかもしれない。


 「私で良かったら話しとか聞くけど」

 「それも義理?」

 「もちろん」

 「だったらいらねぇ」


 それは、どういう意味なんだろう。
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