private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~

 最悪。


 王子様のイメージなんか全然ない。

 この時点で印象最悪。

 緊張感がまるでない。

 見下されてるカンジ?

 白ベンツ、絶対この男だ。

 こんなところに白ベンツって、場違いだって気づかないかな~。

 都会のハイソスクール

 じゃないんだからサァ。


 「自己紹介をしなさい。まず黒板に名前を書いて」


 ズドンッ!!

 一瞬、教室が静まった。

 転校生の手からスクールカバンが離れ、床に落ちていた。



 最低。

 何あの男。

 ムカつくんですけど!!

 ポケットに手を突っ込んだまま怠そうに教壇に登ると、左手で白いチョークを取り、サラサラと黒板に字を書いた。

 幅の狭い、刺すような字。

 心が狭いんだろうなぁ、とか思っちゃうのは印象が最悪なせい。


 書いた字は【彩並寿】


 色白だし面長だし日本人離れしてる割りには純和風の名前にビックリ。

 チョークを置いて振り返ったそいつはやっぱり態度悪くて、今にもあくびしそうなカンジで口を開く。


 「アヤナミコトブキです。よろしく」


 痩躯に合った細くて鋭い声。

 風邪ひいたみたいに鼻に掛かってる。

 そういう声、嫌いじゃないけど。


 「字が足りないぞ」


 彩並寿の隣りに立っている先生が怪訝そうな顔をして、変なことを言う。


 「名簿が間違ってるんですよ」


 初めて見せた微笑み、目が笑ってなくて冷たい。

 やっぱコイツ、私たちを見下してる。


 「え!?」

 「HRの時間がなくなってしまいますので、その件に関しては後ほどでよろしいですか?」

 「そうだな。じゃあ彩並、お前はそこだ」


 私がいる窓辺の最後尾、いわゆる転校生席が彩並寿の座席になった。
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