ナイチンゲール誓詞
数日後、日勤の記録を終えてロビーを歩いていると、彼女の配偶者と会った。


夕方のロビーは見舞い客と、歩ける患者さんたちが談笑する温かい空気に満ちていた。

温かい空気に溶け込まない、静寂を纏うその人は、彼女によく似た静かな声音で言った。


『お世話になっております』

手には、本屋の紙袋があった。


「・・・本?」



『全部読むまで死ねないって言うものですから』





――― 我は、ここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん。




彼女の配偶者に挨拶をして、職員通路から外へ出る。


梅雨明けの空は、夕日で美しく染まっていた。



子どもの頃に見た、あの夕焼けのようだった。




・・・誰かの役に立ちたいと願った、あの誓いは・・・。
わたしは、少しでも役に立っているだろうか。




――― 我が手に託されたる人々の幸せのために身を捧げん。



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