アフターレイン
未知の単語に若干のもやもやを感じつつも、我が家のシェフの言葉に従って次々と皿をテーブルに運んでいく。



その折、視界の端に見えた親父は革張りのソファに体育座りをしていじけていた。

落ち込み方ベタすぎねぇ?

別にどうでもいいけど。



……。



「こんなご馳走用意してるけどさ、誰か来んの? 客?」



ふと感じた疑問を率直にぶつけてみる。

直己はさながらウエイターのようにテキパキと料理を運びながら、しれっと俺の質問に答えた。



「うん、客。皐月ちゃんだよ」

「……皐月? それって、」

「さっちゃん」



皐月。

……皐月?



それってやっぱ、あの皐月だよな。



何より、直己が「さっちゃん」と呼称する人間を俺は一人しか知らない。



──じゃあさっき学校で、タマが話しかけて名前を訊いていた〝イザワサツキ〟は。

ここにあいつがいるはずがない、どうせ同姓同名か何かだろう、と思っていたけど──。



「あのさ直己、俺今日」



──ピンポーン



「あ、さっちゃん来たかも」



口を開きかけた俺の言葉を遮るように、インターホンが来客を知らせた。
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