アフターレイン
パタパタ、とスリッパが床を叩く音を響かせながら直己が早足で玄関に向かう。

俺は何となく状況が飲み込めなくて、ただただその場に突っ立っていた。



「…何で、皐月が?」



誰に言う訳でもなくぽつりと呟いた。



玄関の扉が開く音がしてハッとする。

そうだ、呆然としてる場合じゃない。



何かにつられるようにして、俺も玄関へと急ぐ。

すると、開いた傘をたたみながら家の中に入ってくる人物と不意に目が合った。



「おじゃましまーす」



背中まで伸びた長い茶髪。

ほんの少しだけ濡れているようで、電光を反射した雨粒がきらりと光っていた。

パーマなのかヘアアイロンで巻いているのか、くるくるとウェーブしている。



帰り際学校で見た、あの後ろ姿と重なった。



──……皐月、なのか?



「いらっしゃい。さっちゃん」

「直くん。おじゃまするね」



少しも黒さを含まない素敵な笑顔の直己と、口元を綻ばせて微笑む皐月。

さっちゃん、直くん、と幼い頃のままの呼び名でお互いを確かめ合っている。
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