アフターレイン
「俺、名前訊いてこよーかな」

「は?」

「だから、あそこの茶髪の子。見たことない顔だし、たぶん一年だろ」

「いってら。」

「…あれ? お前は来ないの?」

「いってら。」

「…いってき。」



言うが早いか、ウサイン・ボルトも真っ青のスピードで、タマは例の茶髪の子の元に飛んでいった。

笑顔で話しかけているみたいだが、その女子達の視線が自分の頭にばかり注がれていることにあいつは気付いているんだろうか。



「……」



アホらし。

思えば、タマはいつもこうだ。



大人しく待っているのも癪なので、折りたたみ傘を開き、一人でさっさと校舎を後にする。



──しばらくすると、背後から小走りの足音が近付いてきて。

追い付いたタマは俺の横に並び、傘を差し出してやると「ありがとっ」と言いながら傘下に入り込んだ。



そして多少息を乱しながら、頼んでもいない結果報告をし始める。



「あの子、井沢皐月ちゃんて言うんだって!」



……いざわさつき?



「どした? 久志」

「何でもない」



いや、まさかな。

そんなことはない、はずだ。



「……」

「久志ー?」

「……何でもないってば」





〝あいつ〟がこんなとこにいるはずないから。
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