アフターレイン


「こんばんは」

「……こんばんは」



 松川先生に挨拶をされ、妙に安心した。

 にっこりと柔らかく微笑む初老の男性。



 やっぱりこの人、醸し出す雰囲気からして優しいんだよなあ。

 この人に任せたらもう大丈夫だって、根拠のない安堵感に包まれるんだ。



 俺は、キャリーケースから依然調子の悪そうなマールを出した。



「マールくん、ね。この前検診受けにきた子だよね。今日はどうしたの?」



 俺はその現場を見ていないけど、直己が言っていたことのそのまま受け売りでいいよな。



「さっき、いきなり嘔吐して。吐き出したものの中に毛玉はなかったんで、もしかしたら何かの病気かと思って……連れてきたんですけど」

「嘔吐? 吐いたの?」

「はい、食べた直後に」

「食べたものは?」

「普通のキャットフードです。子猫用の離乳食みたいな柔らかいやつ」
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