アフターレイン


「あのすみません、木戸さんって」



 一番近くに立っていた、ちょっとふくよかな体型のおばさんに訊いてみる。

 おばさんはにっこりと笑って、緊張気味の俺の肩をぽんぽんと叩きながら教えてくれた。



「今、部屋の掃除中だと思うよ。もう少ししたら来るから、待っときな」

「は、はい。ありがとうございます」

「ははっ、緊張しなくて大丈夫だよ。あたしは鈴木(スズキ)。よろしくね、影山くん」



 何だか気さくなおばさんだ。

 うちの近所の八百屋の奥さんに似てる。



 名前は……鈴木さん、か。

 覚えとこう。



「まあ、そんな気張らずに頑張りなよ」



 そう言い残すと、鈴木さんはさっさと自分の持ち場のカウンターに戻っていった。
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