黄色い線の内側までお下がりください
富多子は眠れない日々が続いた。
夜になるとうなされ、脂汗をかきながら起きる。
大梯はその度に起きては汗を拭いてやったりパジャマの替えを持ってきたり、水を持ってきたりと甲斐甲斐しく尽くした。
あざみを見たあの日から、あの駅は完璧に避けるようになった。
完全にあざみは富多子を待っている。そして見つけられた富多子はこれから進まされる自分の道を思い、身震いをした。
忘れたい。あのときのことは全て忘れたい。
もう昔の話だ。
大梯を失いたくない。
この幸せな時を無くしたくない。
壊されたくない。
逃げたい。あざみから逃れたい。
あいつに捕まりたくない。本気でそう思った。