黄色い線の内側までお下がりください
このまま隠し通すのは難しいと感じた富多子はしばらく黙り込み、これからどうしたらいいのか考えたが、答えは何も言わないということだ。
「うん、なんでもないよ」
「なんでもないってことはないでしょ?」
「ほんとに、ただあのときは急に具合が悪くなっちゃって。電車が通るときの揺れとかちょっと無理だってなっちゃって」
「本当にそれだけ?」
疑われているのは分かっているけど言うわけにはいかない。言えば私が関係していたことが分かってしまう。
そうならないためになんとかここまでやってきた。
大梯はバカじゃない。
簡単に探り出すかもしれない。だから最後まで隠し通さないとならない。
桜の背中を押したのが私だってことを、最後まで隠し通して墓場まで持っていかなければならない。
富多子をじっと監察している大梯の目には不信の色しか浮かんでいない。
富多子もまたバカじゃない。
「だからほら、あんまり言いたくないってこともあるでしょ」
首を傾げた大梯の耳元に口を寄せ、一言二言ことばを繋いだ。
それを聞いた大梯の顔はあっという間に真っ赤になり、ごめんねと連呼した。