黄色い線の内側までお下がりください
初夏の初めの頃、梅雨時は朝から雨がしとしととのんびりと降り注ぎ、時間の流れをゆったりとしたものにする。
紫陽花の葉の上を透明な液体を引きずりなからゆららりと進むカタツムリのつのは雨の滴に弾かれている。
枕木の間に無数に咲いている紫陽花の中に立っているあざみに雨に打たれるという感覚は無い。
もちろん頭から雨に打たれている。髪の毛は濡れているし両頬を伝う雨水は顎でひとつにまとまって胸元に落ちる。
全身にこびりついた黒い血は雨により下へ流されるが、次から次へ体の中から凝固した血液が流れてきて、それは終わりなく続いていて、足元に咲き乱れる紫陽花により吸収されていく。
あざみに警笛を鳴らす運転手は、電車がぶつかっても前方に飛んでいかない、もしくは避難場所へ吸い込まれていかないあざみにさらに強く警笛を鳴らす。
線路からホーム上を見上げ、微動だにしないあざみは、電車にぶつけられてもそこから動かなかった。
ただただ来るべき人をひたすらに待ち続けていた。