黄色い線の内側までお下がりください
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「私が求めていたのはあなたじゃない」
しとしとと降りしきる雨はやむことがなかった。
ここ最近ずっと降り続けている雨のおかげで、世界は生臭いものと化していた。
あざみは相変わらず線路の真ん中に突っ立ったまんま雨に打たれていて、足元には変わらずに青い紫陽花が咲いている。
ホームのベンチに座っているのは、大梯だ。
パジャマにしているジャージの上からパーカーを羽織り、じっとりとした梅雨には暑いと思われる格好をしていた。
「......君が富多子ちゃんを怖がらせているわけか」
「......怖がらせてなんてない。待ってるだけ」
現に今では私はこの駅から外に出ることができなくなっている。
だから、待ってることしかできない。
怖がらせることなんて、できない。
下を向いたまま間延びした声で話すあざみを気持ち悪いと感じ、大梯の背筋に冷たい汗が流れた。
「悪いんだけど、富多子ちゃんが怖がってるからさ、そろそろやめてもらえないかな」
「どうしてあなたには私が見えるんだろう?」
「さあ、どうしてかな。でもこの前電車の中で君が手を伸ばしていたことだって知ってるよ」
下を向いているあぞみの真っ白い鼻先から雨の雫がするりと落ちた。
耳まで切り裂かれた口から真っ赤な舌がだらりと垂れ下がり、肩を揺らして笑い始めた。