黄色い線の内側までお下がりください
許すわけがない。
そんな簡単に諦めるはずがなかった。
どこまでも追いかける。
地の果てまでも追いかけて、自分のその手で息の根を止めるまでは何があっても追いかけ続けるだろう。
二人を見逃すことは決して無い。
動けないなら動けないなりにここに呼び込んでやる。
あざみの顔からは完全に笑みが消え去った。
彼女はもう自分に時間がないことを知っていた。
ゆっくりと待ちすぎた。急いで片付けなければならないほどにタイムリミットがせまっていた。
冷たい雨に打たれている頭からぼとりぼとりと肉の塊が崩れ落ちて、足元に落ちる。
その肉の塊に紫陽花の花びらが何枚も張りついていく。
右耳がずるりと音を立てて顎の方へずり落ちたとき、あざみは小さく舌打ちをしてホームのベンチに目を向けた。
あのベンチに自分が座ることはもうないかもしれないという直感が腐り始めた脳みそに不安となって浮かんだ。
「死んでまで不安になるなんてね」
肩を力なく揺らし自嘲気味に笑って足元の紫陽花の中へ倒れこんだ。