黄色い線の内側までお下がりください
夢を見た。
富多子は自分が四方八方からありとあらゆる電車に押し潰されて苦しみもがく自分を客観視している自分を夢の中でみていた。
玉のような汗をかいて夜中に起きるが、隣では大梯が気持ち良さそうに寝ていてその横顔を見て安心する。
ワンルームの部屋はベッドとテーブルとソファをおいたらいっぱいいっぱいだ。
しかし、この狭さが今の二人には落ち着ける空間となっていて、
ベッドから出た富多子は静かにソファの上で丸くなり、暗い部屋の中の一点をじっとながめた。
カラーボックスの中には一冊のアルバムが置いてある。
写真には笑顔で笑っている大梯と、そこに寄り添うように写っている自分がいる。
楽しいことを思い出し、暗い気持ちを手放したかった。
未だに雨は止まず、窓ガラスを打つ雨音は富多子の波打つ鼓動を抑えつけてくれるいい材料だ。
目を閉じるとあの光景が浮かび上がる。
自分の後ろに得たいの知れない何かがつきまとっている気がしてならない。
このままずっと永遠に追われるんじゃないかという恐怖に脂汗が流れた。
心は蝕まれ憑かれている恐怖を全身に感じながら生活をするのは、苦痛でしかない。